[fpr 2873] 矢印と因果関係

岡本安晴


 岡本@日女大心理学科です。

 パス図における矢印は回帰モデルを図示したものですが、

(1)   結果 = 原因 + E1

は、矢印で

(A1)   結果 <−− 原因
(A2)   結果 <−− E1

と表されます。
 (1)式は、原因が結果に及ぼす影響を記述・予測するものですが、
結果から原因を推測する場合は、

(2)  原因 = 結果 + E2

となります。
 矢印の先が回帰式の左辺の項を、根元は右辺の項を表すという約束の
下で(2)式は

(B1)  原因 <−− 結果
(B2)  原因 <−− E2

と表されます。この場合、(B1)式の矢印は、結果から原因を推測するという
方向を表しています。
 回帰式の左辺が結果を表す、あるいは対応する表現として矢印の先は
結果を表すというのは、そのときの解釈の都合によって決まることで、
回帰式そのもの、矢印そのものはその解釈、左辺が結果を表す、
矢印の先が結果を表すというような意味づけを解釈者の都合に委ねて
おります。

 (結果、原因)の分布に因果関係が反映されるのか、何らかの因果関係が
あれば、(結果、原因)の分布に対応する統計学的特徴、すなわち非対称性が
現れるのか(正規分布にはこの意味での非対称性はありません)ということは
実証科学における問題です。
 「カラスは黒い」という仮説を検討するとき、これは論理学の問題ではなく、
事実の認識についての問題であって、
(イ) 実証的検討、すなわち、何羽調べれば仮説を認めることができるのかという問題。
(ロ) 命題の概念的・理論的内容・意味の問題。
をとりあげることができますが、(結果、原因)の分布の特性についても同じ問題が
出てきます。これは数理統計学の問題というより、統計モデルと事実との関わりに
ついての問題であって、
(イ) どのようにどれぐらいの事例を検討すれば主張されている分布の非対称性を
認めることが出来るのか。
 非対称性が認められたとして
(ロ) なぜそのような分布の特徴・非対称性が見られるのか
という問題が出てきます。

 回帰式あるいは矢印の方向性の因果的意味づけの問題、
(結果、原因)の分布の特徴(そのようなものが存在するとして)の問題、
パス図を眺めされられることの多くなったこの時期、ちょっと気になりました。

日本女子大学心理学科
岡本安晴






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