[fpr 2901] 心理学科・統計学のテキスト

南風原朝和

南風原@東大教育心理です。

ONODERA Takayoshi さんからの引用:

> 数学がない、あるは選択にしている大学と必修にしている
> 大学ではその後の教育の展開がだいぶん変わってくるのでは
> と感じています。

そうですね。大学入試で数学を受験したかどうかというのは,確かに考慮
する必要があると思います。ただ,それは「必要に応じて補足をする」と
いう意味でです。

私は,数年前まで毎年,私立文系の1〜2年生に心理統計学の授業をして
いました。Σの意味や用法を知らないという学生もいましたので,たとえ
ば平均の定義を扱うときに,少し時間を割いてΣの意味や用法,誤りやす
いポイントなどの説明をしました。その後も,適宜,○+○+・・・とい
う表記を併用しつつ使っていけば,Σには慣れてきます。

分散分析などで,ΣΣが出てくるときには,また少し時間を割いて説明す
れば大丈夫です。高校でΣを学んでいないとか,Σに慣れていないという
理由だけで,その後,何十時間もかけて学ぶ心理統計学を,ずっとΣなし
でやって行かなければならないということではないと思います。

統計はデータとの対応がある分,純粋な数学に比べて具体性をもっている
ので,統計学習の文脈で数学の説明をすると,かなり分かってくれるとい
う感触があります。たとえば,多くの変数の間の相関係数を一覧表にし
て,これを相関「行列」と呼ぶ,といった説明は,抽象的な記号の配列と
して行列を学ぶよりも,親しみやすいはずです。

また,変数のベクトル表現にしても,標準偏差や相関係数について学んで
きた後,これを視覚化する方法として導入すると,無理なく学べるように
思います。そもそも,数学の授業ではないのですから,ベクトルならベク
トルについて,体系的に詳細に説明する必要はなく,たとえば「多変数の
間の関係の理解」という,そこでの具体的な目標にとって必要で役に立つ
範囲で説明すればよいのですから,その点でも楽です。実際,高校である
程度数学をやってきた学生でも,そのような形の学習を通して,たとえば
「コサインというものの意味が,はじめて良くわかった」というような経
験をした学生も少なくないようでした。

大学入学者の数学力が低下しているのであれば,それに合わせて心理統計
学の授業の達成目標レベルを下げていくのではなく,うまく工夫すること
で,あわせて数学力のアップも図れればと思っています。

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南風原朝和  haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp


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