豊田秀樹@早稲田大学です 1つの外国語にいくつも訳語があると,あとから勉強する人間には迷惑です. 私の方針はできるだけ新しい訳語を作らない,複数あるものは主流はどちらか 調べる,あるいは師匠筋の人の使っている訳語を使用するというものです. Item Response Theoryに対する,項目反応理論や項目応答理論には困ったもの だと思います.しかし所詮,言葉ですから,なすがママ(きゅうりがパパの原 則)で自然に収束するのを待つしかありません. とはいうものの,たまには強く主張したくなる訳語も有ります.それはパス 解析やSEMにおいて,モデルが識別されない(パスを引いても解が求まらな い)状態を表す言葉です.これは「識別不定」といいます.ところが同じ状 態を「識別不能」という場合が増えてきました.最近,SEM関係の教科書や, 教科書の一部にSEMの解説をあてた書物が増えてきましたが,「識別不能」 という用語が使われるようになって来ました. しかしこの言葉に関しては「識別不定」に統一すべきです.「識別不能」と いう言葉は駆除すべきであると,私は思います.きゅうりがパパの原則にした がっている私が何故ここまで強く主張しているのかには理由があります.連立 方程式は,義務教育段階で登場し,A.不能(解がない) B.解ける C. 不定(解が無数にある)の3種に分類されます.この用語は尊守する必要があり ます.ここに適合度関数という考えを導入すると,Aの不能な連立方程式は解 けるようになります.Bの方程式は飽和モデルと呼ばれます.そしてCの不定 な連立方程式は適合度関数という考えを導入しても,解けずに不定なままであ り,この状態を「モデルが識別されない」といいます.したがって「モデルが 識別されない」状態を表す言葉は,「識別不定」が望ましいのです.そればか りでなく「識別不能」であってはならない(誤解を招く)のです. 連立方程式 統計モデル A.不能 −> 識別される B.解ける −> 識別される(飽和モデル) C.不定 −> 識別不定 結論:識別できない状態を表す四文字熟語には「識別不定」を使いましょう.
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