[fpr 3005] 「識別不定」を使いましょう

岡本安晴


 岡本@日本女子大学心理学科です。
 
 最近、fprに対する興味が急に低下してきました。
 Niftyからfpr以外のサーバには問題なく送信できるのに、
なぜfprのときには問題が起きるのか。Niftyの担当の方も
納得できないようでした。

 ですが、「識別」という言葉で最近引っ掛かっている問題を
思い起こしましたので、少し書いてみました。

 まず、「識別可能」は「identifiable」という言葉の訳だと記憶しております。
identifiable」とは、昔読んだ数理学習理論の文献では、データに対してモデルの
パラメタ値が一意に決まるかどうかというようなことを表していた用語だったと
思います。「識別」は区別することに関わる語ですから、何かを同定する
identifyとは異なります。「識別」はidentifyよりはdistinction、discriminationという
言葉の方が合うように思います。

 このようなことを書く気になったのは、豊田さんの投稿がきっかけですが、
直接の原因は最近の哲学者の一般向け解説書を読んでいて感じたことです。
数理モデルを用いる心理学者にとって道具としての数学は正確に使われる
ことが要請されますが、言葉で考える哲学者は言葉を大切にしているはずです。
ある科学哲学の解説書で、「underdetermination」という言葉が「過小決定」と
訳されていました。under-は、この場合「不十分」ということなので、「過小」の語には
「おや」と思いました。
 これとは少し事情が異なりますが、別の科学哲学の解説書で、representationが
表徴(?だいぶ前のことなので正確には覚えていない)となっていました。数学では
表現と訳していますが、representationの内容は数学におけるものと同じでした。
科学哲学は科学を対象としているので、数学の方に合わせて欲しいと感じました。
記号論の世界の読者だけではなく、数学の用語が念頭にある科学系の読者のための
注釈ぐらいはあってもよいと思いました。

 訳の問題は難しい(本屋さんに訳のない語を訳すように注文されたときは
困りました)ですが、しかし他の領域と異なる訳、あるいは日常的感覚と
合わない訳は初学者を戸惑わせると思います。
 用語は慣れれば気にならなくなりますが、用語の定義を無視してその用語の
構成要素である言葉の日常的意味にこだわって議論が展開されたときは、
やっかいです。


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