[fpr 3006] 「識別不定」を使いましょう

toyoda (at) waseda.jp

豊田秀樹@早稲田大学です

>fprの皆様
>豊田さんの
>> 連立方程式    統計モデル   
>> A.不能  −> 識別される
>> B.解ける −> 識別される(飽和モデル)
>> C.不定  −> 識別不定
>の図式に関してですが,SEMでの連立方程式は,以下の2つのレベルに分けて
>考えることができると思います。
>  レベル1:共分散構造に関する方程式
>       例:Cov(yj,yk) = Σg βjgβkg
>  レベル2:最適化に関する方程式
>       例:dL/dβjg = 0
>このとき,同一のモデルに関する方程式が,レベル1では(母数の数が方程
>式の数より少ないために)不能であるが,レベル2では(必要な制約が欠け
>ているために)不定になるという場合があると思います。一方,レベル1で
>不定であれば,レベル2でも不定のままです。
>豊田さんの図式は,レベル1の方程式に関するもののように思われますが,
>モデルが識別できるかどうかは,直接的にはレベル1ではなく,レベル2の
>方程式における不定性と対応するのではないでしょうか。


もちろんレベル1が「連立方程式」で,レベル2が「統計モデル」です.
探索的因子分析モデルのように,レベル1では不能であるが,レベル2では不定
になるという場合が存在することは,その通りですが,SEMの世界では
どちらかというと例外の部類なので,話を単純にするために1通目では
書きませんでした.南風原さんの2通目流に書き直すと

 レベル1    レベル2
A.不能  −> A1識別される
         A2識別不定(まれに)
B.解ける −> 識別される(飽和モデル)
C.不定  −> 識別不定

となります(理論的には解が有限個の場合やその他にも書き足すべきことは
ありますが,とりあえずです).南風原さんの1通目は「不能」を不可能に相当
する日常用語としても使用なさっていますが,考察が進んだ2通目では,もはや
「不能」も「不定」も数学的意味としてしか使っていません.そういうもの
ではないでしょうか.

「SEMの識別問題とは何だろう」と初学者が正しく理解したり,専門家がまじめに
考えるためには,ある場所では専門用語として使用し,ある場所では日常用語として
使用し,混ぜて用いたのではダメで,
不能:解が1つもない
不定:解が無数にある(あるいは複数あり,本質的に1つに定まらない)
のように1つの言葉には1つの意味だけを与えるようにすべきです.1つの領域で
1つの言葉に2つの意味を与えたら思考・理解が阻害されます.


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