豊田秀樹@早稲田大学です >南風原@東大教育心理です。 >(ちなみに,「識別不定」だと反対語は何になるでしょうか。) おっしゃるようにバランスを欠いているような印象を与えましたので 歴史をすこし書きますね.英語では underとoverという接頭語がつい ています.識別不定の反対語は識別不能です(識別性不足・識別性過 度ともいわれる) S.ライトを嚆矢としてサイモン・ブレラック等 おもに計量社会学が受け継いだパス解析の理論体系ではレベル1で識 別を判定してきた長い歴史があり,完全逐次モデルの係数の有意性で モデル構成をしてきました.(ただし解としては正確性を欠きます) 心理学分野でもたとえば1983年に木戸賞をとった 樋口 一辰・鎌原 雅彦・大塚 雄作 「児童の学業達成に関する原因帰属モデルの検討」 教育心理学研究 は,サイモン・ブレイラック流の延長線上にあり, overとunderという対語は実質的にも概念的にも両方とも有効だった のです.僅か20年前ですが,それが主流でした.ところがその後,計 量経済学の流れをくむ同時方程式型のモデルへ,さらにSEMへとモ デルが一般化され,モデルの識別はレベル2だけで判定されるように 理論体系が変更されました.識別不能状態は事実上存在しなくなり, 片一方の状態である識別不定の状態だけが残ったのです. ちなみに,どんなに丁寧に初期値を決めても解が発散してしまう モデルに遭遇することがあり,(理論上はレベル2では識別不能は 存在しないはずですが)数値計算的にはレベル2でも(識別)不能 になることは,ときどきあります.
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