[fpr 3082] 臨床心理と統計学は本質的には同じ

長谷川芳典

一言居士の長谷川です。
このことに関連する話題を毎日執筆のWeb日記で取り上げさせていただきました。
ご参考にしていただければ幸いです。

==================以下、転載(リンク等一部修正。文体が「ですます」体になっておらず失礼いたします)

 心理学研究の基礎 Foundations of Psychological Researchというメイリングリストで、臨床心理と統計教育の話題が盛り上がっている。なお、念のためおことわりしておくが、このMLの記事は開設当初からすべて、Web公開されている(2006年投稿記録は http://mat.isc.chubu.ac.jp/fpr/fpr2006/ )。間違って私信などを送った場合は管理人の手で削除してもらえるが、即刻対処というわけにはいかない。個人情報に関しても十分に留意する必要があることを申し添えておく。 

 さて、まず話題の発端となったご発言の趣旨は、臨床心理士課程の大学院で指導する際の統計法や研究法一般の中味やレベルについて御意見を求めるという内容であった(と理解している)。 

 このWeb日記でも何度か取り上げているように(まとめのファイルは http://www.geocities.jp/hasep1997/series/_10614/index.html からどうぞ)、現時点では、「臨床心理士」は国資格ではなく、民間の認定資格の1つにすぎない。従って、この限りにおいては、臨床心理士資格認定要件に関わる論議は、その団体の内部で行えばよい。それ以外の各種心理士(心理師)関連資格の場合も同様だが、規制緩和・自由競争のもとで、「本団体では、○○という要件を満たした場合に資格を認定しております」というように、それぞれの団体がそれぞれ必要であると考える基準を設定し、一般社会に対して質を保証し、質の向上を競い合えばそれでよいのではないかと思う。 

 もっとも、これが国の資格となれば話は違う。国資格化を実現させる場合は、統計学や心理学研究法に関してどういうレベル・内容を要求するのかということは、心理学界で広く議論されるべきであろう。本年9月以降に、この日記で取り上げた 

(1)http://www.okayama-u.ac.jp/user/hasep/journal/psy-rec/_60904/index.html#_60904 :2006年9月4日日本行動分析学会基調講演 
(2)http://www.okayama-u.ac.jp/user/hasep/journal/psy-rec/_61010/index.html#_61012 :2006年10月12日日本心理学会創立80周年記念講演(3)心理学専門家のTraining Models 
(3)http://www.geocities.jp/hasep1997/series/_10614/_61104.html :2006年11月4日日本心理学会第70回大会:心理学界が目指すべき資格制度のあり方 

などの問題は、すべてこのことに関連した内容となっている。 

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 上記のリンクのうち、(1)と(2)では、Boulder Model(Scientist-Practisioner Model:科学者実践家モデル)に基づく大学院教育について言及されている。この考え方に基づけば、心理職を養成する大学院でも、統計教育や研究法をきっちりと行うべきだということになる。 

 今回のメイリングリストにおける議論では「診断と治療のノウハウとしての心理学研究法の側面」ということも話題になっているようだが、これに関しては、医行為とは何か(http://www.geocities.jp/hasep1997/series/_10614/_61104.html#_61107)とか、医療モデルと心理モデル(http://www.geocities.jp/hasep1997/series/_10614/_61104.html#_61108)といった議論に耳を傾ける必要がある。 

 さらに根本的な議論として 

●小沢牧子『「心の専門家」はいらない」 ISBN 4-89691-615-8 
http://item.rakuten.co.jp/book/1423052/
●大森与利子『「臨床心理学」という近代 その両義性とアポリア』 ISBN 487672184X 
http://item.rakuten.co.jp/book/3684229/
●「臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子(案)」に反対する(日本社会臨床学会・会長) 
http://www.geocities.jp/shakai_rinsho/etc/sikakuhantai.html

などの意見にも耳を傾ける必要がある。心理学の初期教育においても、学生にこれらの書籍等をちゃんと読ませて、賛成であれ反対であれ、とにかく、きっちりとした考えを持たせておくことが肝要ではないかと思う。 


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 もう1つ、これは、統計教育に関して気がかりな点なのだが、先日の大学教育改革プログラム合同フォーラム冒頭の有馬朗人氏の基調講演(http://www.geocities.jp/hasep1997/_6/11/13.htm#_61113)でも紹介されたように、最近では、簡単な二次方程式(例えば、χ2+2χ−4=0)が解けない大学生が急増しているらしい。この問題の正解率は、同じ経済学部学生の中でも、2次試験で数学を課している国立大や私立大では79.4〜96.1%に達しているが、私立大トップ校であっても数学を課していなかった私立大ではトップ校で10〜30%にとどまっているそうだ。 

 認定資格としての「臨床心理士」養成をうたい文句にしている大学の中も、入試段階で数学を課していない大学は少なくないように見受けられるが、果たして、統計教育はきっちり行えるのだろうか。二次方程式も満足に解けない学生が、相関係数、推定、検定といった統計学の基本中の基本を理解できるとは到底思えないなあ。となると、高校数学を復習するための補習教育が必要になってくるのだが、それだけの時間が確保できるかどうか。 

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 心理職の国資格化問題については依然として論議が続いているようだが、私個人は、とにかく、心理職の質の保証が何よりも大切であろうと考えている。Boulder Model(Scientist-Practisioner Model:科学者実践家モデル)までは達成できないかもしれないが、量的研究法も質的研究法もしっかりマスターし、かつ全人的視点に立ち、心理職のあり方議論でもちゃんと意見を言えるような学生を育てていきたいと思っている。


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Y.Hasegawa/長谷川芳典
岡山大学大学院社会文化科学研究科(文学部心理学兼担)
公用サイトhttp://www.okayama-u.ac.jp/user/hasep/
予定表 http://calendar.yahoo.co.jp/hasep2004
私設Web日記 http://diary.hasep.net/WELCOM.HTM


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