新潟大学の柴山です。 この春、新潟駅に出店した大規模書店で、昨日、たまたま岡本さんの「計量心理 学」培風館を見つけ、早速購入しました。この書店ができたお陰で、東京まで往復4 時間半&交通費をかけなくても、こうした質の高い専門書を手に取ってみることがで きるので助かります。もちろん、古典的な測定モデルから多次元尺度法、IRTまで きちんと書かれたご本との印象を持ちました。新年度が始まる前にじっくり読ませて 頂きたいと思っています。 さて、ところで、昨年の日本テスト学会で発表したとき、下記と似たようなご質問 を、岡本さんがなさっていたのを思い出し、少しコメントを差し上げます。 私自身、日本の教育論議の中で一番問題なのは、「データ」なしにその時その場の 雰囲気で、一気に結論が定まってしまうことが多々あるというところだと考えていま す(例えば、岡本薫「日本を滅ぼす教育論議」講談社現代新書、山森・荘島「学力」 ミネルヴァ書房などが参考になります)。そのため、そのアンチテーゼとして自分に できる範囲で余力があれば、身近な教育調査に協力し、なるべく実践的な場から データとその分析結果を蓄積していこうと努めています。その一例として、 1) 新潟県ホーム > 教育・文化 > 教育・学習 > 義務教育課>全県学力調査報 告書 平成16年度「全県学力調査」報告書 平成17年6月 Ⅳ 児童生徒の学習に対する意識や生活実態と学力との関係 (p234~240) (p241~250) (p251~255) Ⅴ 教員の指導方法等と学力との関係 (p256~269) http://www.pref.niigata.jp/kyoiku/gimukyoiku/gimukyo/gaku-chosa/houkokusho/houkokusho-top.html を挙げます。似たような調査は、例えば、 2)香川県教育委員会ホームページ > 教育統計 No.13 学習状況調査の結果(平均正答率)(PDF 874KB) http://www.pref.kagawa.jp/kenkyoui/somu/statistics/data/18_12.pdf 3)広島県教育委員会ホーム > 小中学校教育 平成17年度「基礎・基本」定着状況調査 報告書 http://www.pref.hiroshima.jp/kyouiku/hotline/05junior/1st/h17kiso_houkoku/17index.html 等でも、報告されています。最近では、fpr3113で「群馬県児童生徒学力診断 テストデータの分析」の研究会が紹介されていました。 1)の特徴は、章タイトルにもありますように、テスト得点とそれ以外のさまざま の指標との相関を計算し、それを解釈している点です。現場の先生方と議論を重ねな がら、質問紙の内容も含めて調査全体を設計し、結果の解釈も協力しておこないまし た。データ数が多いですから、当然、小さな相関でも無相関検定をすれば仮説は棄却 できます。だからといって「実質的に意味があるのか」というとそうとも限らない。 効果量で話をするには、保護者や新潟県民への説明責任を考えると専門的になりすぎ る。そこで、私自身がこれまで携わってきたデータ解析の経験を踏まえ、また現場の 先生方の声をお聞きしながら、試行錯誤して出してきたのが約0.3という経験 「値」です。また、後付ですが、説明率にして10%程度を最低ラインとも考えてい ます。もちろん、演繹的に証明できるものではなく、むしろ帰納的に導き出したもの ですので、すっきりとは結論付けることはできません。 そこで提案なのですが、幸い上記のように公開されている資料もありますので、そ の資料を参考にして頂きながら、「教育心理学的な調査研究における分析の際に、一 つの経験値として、相関係数0.3を目安にするのは妥当かどうか」といったテーマ で、岡本さんを初め、fprのみなさまのご意見をうかがえたらと思います。 この議論は、文部科学省の全国悉皆学力調査: http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/index.htm に象徴されるように、今後ますます盛んになってくると思われます調査結果をどう見 るのかといった上で、重要な視点を与えてくれるのでは、と期待しています。 ご意見・コメントをお待ちしています。 ーーー柴山 直
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。