[fpr 3278] 心理学研究、統計学、数学のこと

岡本安晴


 心理学研究、統計学、数学、これらのことについて
ちょっと書きたくなりました。

 心理学研究においてはデータの解釈が基礎となりますが、
心理学研究におけるデータにはいろいろな意味での不確実性が
伴います。データから因果関係を推測するときには、交絡要因など
妥当性の不確実性の問題があります。結果の信頼性についての
不確実性の問題もあります。これは追試でチェックするというのが
1つの考え方になります。しかし、今目の前にある結果の信頼性に
ついて知りたいときには、追試を待っているのでは間に合いません。
このときは、データ生成に関するモデルを構成して、理論的に信頼性を
検討することになります。データの不確実性を確率モデルで表わし、
その確率モデルに基づいて信頼性の評価を行うわけです。これが
統計的検定とか統計的推測・推定と呼ばれている方法であると
理解できます。信頼性の度合いは、有意水準、p値、信頼区間、
検定力とか事後分布で表わされます。
 確率モデルに基づくわけですから、統計的検定とか推測・推定の
結果を理解するためには、分析の基礎となっている確率モデルが
どのようなものであるかを了解するための最低限の数学的準備が
必要になります。アプリケーションソフトが出力した数値は、
設定されている確率モデルに対して理解することになります。
 つまり、心理学における不確実なデータの分析結果の信頼性を
評価するためには統計学的分析が必要であり、その統計学的分析を
適切に理解するためには統計学的分析の背景に設定されている確率モデル
を理解しておかなければならないということになります。
 確率モデルの理解には、それに対応した数学的準備が前提となります。
つまり、心理学における不確実なデータの適切な解釈のためには、
統計学の適切な理解のための数学的準備が必要になります。
 統計学の授業において、学生の数学的準備不足の問題が指摘されて
いますが、それに対応してでしょうか、
「データ分析には数学は不要である」
という意見もあります。しかし、統計学的分析がデータの不確実性を
評価するものであり、そのために確率モデルが設定されていること、
確率モデルは数学モデルであることを考えれば、数学抜きの「不確実な
データの分析結果」の理解は危険だと思います。
 数学が嫌いで使わないというのであれば、
「追試を徹底して行う」
というのも1つの方法であり、また
「不確実でないデータ」
を収集する研究法を用いるのも1つの考え方です。しかし、
通常はデータには不確実性が伴い、統計学的分析が可能なように
データを収集することができる場合が多いのですから、
分析結果の不確実性の評価を適切に行うための数学の準備を
しておくことは合理的であると思います。
 数学の入門書はいろいろあります。拙著
「統計学を学ぶための数学入門[上]」培風館、2008
も書店で見かけたら覗いてみて下さい。確率変数を
「ランダムに値が変動するもの」
というような安易ではあるが数学の概念としては理解し難い
奇妙な説明ではなく、数学の概念としてきちんと定義する
など私なりの努力をしました。詳しくはホームページ
http://mcn-www.jwu.ac.jp/~yokamoto/books/math1/
を見て頂ければと思います。

日本女子大学心理学科
岡本安晴





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