南風原@東大教育心理です。 [fpr 3337] の岡本さんのご意見に賛成です。 現実には,手もとのデータに対応する母集団が何であるかすら曖昧 な場合が少なくないのに,その母集団を想定し,さらにそこからの ランダムサンプリングを前提としないと意味をもたない(説明が できない)ような指標(不偏分散)は,記述的な目的には不向きです。 私がだいぶ前に留学先の大学で初等統計の講義を担当したときに使 用したテキスト(Elementary Statistical Methods in Psychology and Education (2nd ed.)by P. J. Blommers and R. A. Forsyth) では,分散と不偏分散の区別をとても重視していて,初版への はしがき(初版は by P. J. Blommers and E. F. Lindquist, 1960年) で,1つの段落を使って見解を述べています。その見解というのは, 不偏分散を標本の分散の定義としてしまったら,初学者への説明が難 しくなるだけでなく, 1.標本における事実 2.母集団における事実 3.母集団における事実の,標本による推定 の間の区別を学ぶうえでの最適の教材を失うことにもなる,とい うものです。3については,さまざまな観点から最適な推定とい うものが定義されうるのに,そのうちのひとつ(不偏分散)を もって,1そのものの定義であるかのように扱うのは,統計学的 にも統計教育上も好ましくないという趣旨の主張がなされています。
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