岡本様,皆さま コメントいただきありがとうございました. 実技試験が1因子かどうかについては,いくらかの議論が内部においても あります.せめて,患者さんへの態度の部分と,純粋に学生自身の身体的 技能の部分は分けた方がいいのではないかとか,近年世界的に注目が 集まっているアウトカム基盤型教育のアウトカムに合わせた方がいいのでは ないか,といった意見です. これらは,いずれも合否判定基準をどう定めるか(standard setting)とか, 信頼性にどこまでのこだわりを持つべきかといった問題と関係しています. ただ,この共用試験システムに関する最大の前提は,合否判定は各大学で 行われ,課題の割り当て,外部評価者などを中央管理するという方法です. 各大学において,上記の問題にどのような心理測定,教育測定に関する 論理を持って対応されているかについては,ある程度のデータは中央側の 人間として関知はしていますが,管理はしていません. 合否判定基準に関する議論は,多くの大学で6割を合否判定基準とすると いう文化(?)が根強く残っていたり,場合によっては大学や学部の規則と して謳われていたりするため,単純ではありません.ただ,純粋な相対評価 を行うとか,相対評価の側面を加味しているHofstee法による合否判定基準 設定を行った場合になど,何%が合格,不合格になるようであれば,世間に 結果を示しても大きな問題にならないだろうといった議論がなされることが あります.医師不足問題とか,各学生に対する補助金の問題,私立では 高額な学費を支払っている父兄への説明責任などが絡んでくるため,それ ぞれの大学において,かなり色んな考え方を持っておられるようです. 難易度の設定は,課題を作成する側の医療系共用試験実施評価機構側の 意識の問題が働いています.橋本重治先生の「到達度評価の研究」に記載 されているような「教育測定(edumetric)」な要素をかなり考慮して作問して いるために,平均点がかなり高く,天井効果が出やすいような課題でもOKと いう形になっているものと思われます. もっと詳細に記載すべき点もあるかと思いますが,あまり長くなりすぎても 読み手を減らすばかりかもしれませんので,この程度でご容赦いただければ 幸いです. 大西弘高 差出人: Yasuharu Okamoto 日時: 2011年2月20日 13:25 宛先: fpr ML 件名: [fpr 3433] Re: 分布の歪みによる偏差値の変化 岡本@日本女子大学です。 森さんのメールなどを読んで、偏差値には一時変換によるZ得点の他に 正規分布に揃えるT得点もありますが、PCで計算を行う現代ではT得点も 算出しておけばよいのではと思います。 大西さんのメールを読んで以下のように疑問をもちました。 まず、実技試験の平均値、中央値があげられていますが、これは 実技の評価が1因子で行われているということになります。実技が 1因子で評価できるという根拠、1因子性の妥当性の根拠はあるの でしょうか。実技が多因子と考えられるとき、1つの得点で実技評価を 行うということは、多因子を基に考えるときはそれらの総合評価、 具体的には総和で実技評価を行っているということになります。この 総和得点の妥当性が問題になります。 大学付属病院のようにグループで診断・診療が行われるときには、 総合得点による実技評価でもいいでしょう。しかし、個人診療の場合は、 総合得点だとある因子に対応する得点が低いとそれに対応する診療が 保証されません。すなわち、個人診療の場合は総合得点の妥当性に 問題があるということになります。 不合格率が0.2%とか1.8%で問題であると書かれています。合格率が 何%であれば妥当性があるという根拠は何なのでしょうか。車の免許試験 の点数との比較もあげられていますが、何点ならよいという妥当性の 根拠も不明です。点数は試験を易しくすれば上がります。単なる点数だけを 問題にするのでは適切な妥当性の議論であるとはいえないと思います。 別の言い方をすれば、60点を合格ラインとすることの妥当性の根拠は 何なのでしょうか? 日本女子大学心理学科 岡本安晴
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。