fprの皆様 だいぶ前に,末尾に貼付したやりとりが堀さんとの間であり,“partila η” を「偏イータ」と呼ぶのは美しくないので,「偏相関比」と呼ぼうと 提案しました。 最近,効果量のことを考えていてそのことを思い出し,少し気になって調べ てみたら,Karl Pearson が1915年の Proceedings of the Royal Society of London. Series A に“On the Partial Correlation Ratio”という論文 で偏相関比を論じていました。それが,堀さんが紹介した“partila η” と同じかというと,同じ場合も違う場合もあります。 A×B の2要因デザインの場合,Pearson の定義によれば,要因Aの影響を除 いたときの要因B(と従属変数と)の偏相関比(の2乗)は,要因Aでは説明 できない分散の何%を要因Bの追加で説明できるかを示すものです。これは 偏相関係数(の2乗)と同じ性質であり,岩原信九郎「新訂版 教育と心理 のための推計学」の401頁にもそのことを示す式があります。 このとき,「要因Bの追加」によって,効果の種類としてはAの主効果,Bの 主効果,A*Bの交互作用効果の3種類となり,上記の式は,そのうちBの主効 果とA*Bの交互作用効果の2つを合わせた寄与を評価するものとなります。 一方,堀さんが紹介された“partila η”は,Bの主効果とA*Bの交互作用 効果のそれぞれの寄与を別々に評価できるようになっています。したがって, 交互作用がないという特別な場合は,要因Bについての Pearson の偏相関比 と“partila η”は同じになりますが,そうでない場合は交互作用の分,違 いが出てくることになります。 ということで,“partila η”には「偏相関比」とは別の名前を付けるのが 必要かもしれません。・・と思いつつ,さらに調べてみると,SASのほうでは, 偏相関比(partial correlation ratio)と呼んでいるようです(ただし, “semipartial”と“full partial”に分けていて,その後者のほう)。 http://support.sas.com/documentation/cdl/en/statug/63347/HTML/default/viewer.htm#statug_glm_sect032.htm 以上,結論はありませんが,偏相関比と呼ぼうと提案した手前,責任を 感じて調べたところをご報告しておきます。 追加の情報がありましたら,ぜひお願いします。 ===== 以下,堀さんとのやりとり ===== : Date: Wed, 09 Aug 2006 19:53:10 +0900 : From: Tomokazu HAEBARA <haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp> : Subject: [fpr 2999] Re: SPSSの偏イータ2乗 : To: fpr (at) psy.chubu.ac.jp (fpr ML) : : fprの皆様 : : 南風原@東大教育心理です。 : : Keizo Hori さんからの引用: : : > APAなどで、効果量を記載するように求められていますが、偏イータ2乗をイータ : > 2乗として報告している論文が結構あるらしいです。その原因にSPSSがあるらし : > い。 : > : > Pierce, C. A., Block, R. A., & Aguinis, H. (2004). Cautionary note on : > reporting eta-squared values from multifactor ANOVA designs. Educational : > and Psychological Measurement, 64, 916-924. : http://www.montana.edu/wwwpy/Block/papers/Pierce,Block,&Aguinas-2004.pdf : > にそのことが指摘されてます。 : : : 確かに,報告された値から要因全体での説明率を求めると100%を越える : ものがゴロゴロありますね。甚だしい誤りが多いことに驚きました。 : : これは推測ですが,こうした誤りに著者も査読者も気づかないというのは, : 「効果量を掲載せよと言われるから計算しているけど,実際には,その値 : にほとんど注意を払っておらず,結局はアスタリスクだけを見ている」と : いうことが原因かも知れません。特に実験研究では,効果量というものの : 必要性が,実感として感じられていないのではないかと思います。 : : あと,言葉の問題ですが,「偏イータ」は日本語として美しくないですね。 : 「偏相関比」で良いのではないでしょうか。 : : ---- : 南風原朝和 haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp ---- 南風原朝和 haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp
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