[fpr 3514] 共分散構造モデルと構造方程式モデル

豊田秀樹

早稲田大学の豊田です。

研究会・著書等のお知らせではありません。
議論を挑むものでもありません。
昔話だし、長いのでサブジェクトに
興味のない方は放てきして下さい。

日経リサーチの鈴木督久さんが「ブログ・牛込日記」というものを
書いていらして、2009-05-02の日記で以下のように述べておられる。

「これで良かったのかというのが「共分散構造分析」だが,なかな
か「構造方程式モデリング」に定着しない。最初の普及のせいであ
る。豊田先生が1980年代の終わりに博士論文や単行本を書いて
いるとき,すでにSEMという用語はあったと思うが。」
http://ushigome.blogspot.com/2009/05/blog-post.html

他人の日記ではあるが、内容をすこし解説をすると以下の様になる。
英語圏では「構造方程式モデリング」が用語として主流なのに我が
国では「共分散構造分析」という用語のほうがよく使われている。
それは豊田の書いた教科書のタイトルのせいである。はやく「構造
方程式モデリング」が用語として定着すればよいのに。。。。。
という内容である。

最近、計量経済学者の国友直人さんが朝倉書店から「構造方程式モ
デルと計量経済学」という著書を公刊され、今が一番よいタイミン
グだと思うので日記に対する返答をしてみようと思う。

小生の学位論文のタイトルは「構造方程式モデルの表現・推定・評
価」というものであり、実は「共分散構造分析」という用語を冠し
ていない。「構造方程式モデル」のほうが1980年代の終わりに
も用語として既に主流になりかけていたからである。

学位論文の執筆をしながら(大学院の最後の年に)竹内啓先生の統
計輪講に参加していた。工学部棟で開催されていた統計輪講は、当
時、竹内啓先生はもちろん、竹村彰通さん、国友直人さんが毎回参
加される大変レベルの高い輪講だった。

お三人の専門は計量経済学であり「構造方程式モデル」といえば、
小生が学位論文のテーマに掲げているものとは同じ名前であるにも
係わらず、異なったものであった。佐和隆光先生のようなスーパー
スターもその昔「構造方程式モデル」が主戦場であった。計量経済
学における「構造方程式モデル」は世界的視点から見ても日本の研
究者の理論的貢献の多い、我が国の数理統計学における華々しい領
域をさす大切な用語である。

このため小生は自分の学位論文のテーマは「共分散構造モデル」で
あると自己紹介していた。同じ名前の別の統計モデルであるとは言
えなかったのである。

運よく何とか学位を得ることができた後、論文のオリジナルの部分
はともかくも、論文を書くために勉強した内容は是非公刊したいと
望んだ。上手くすれば心理学の分析法の一部は間違いなく変化する
という確信があった。

幸い、竹内啓先生が監修されるシリーズの1冊としてお声がかかり、
若輩者のくせに1冊任せてもらえることになった。そこで、ハタと
タイトルについて悩んだ。悩んだすえにタイトルには「共分散構造
分析」を冠することにした。
http://www.utp.or.jp/bd/4-13-064042-9.html

この手法は役に立つので、90'00'年代以降に是非ぜひ広まって欲し
かった。しかし当時所属していた心理統計学の芝研究室で「共分散
構造分析」を専攻していたのは私一人だけであった。誰も興味を示
さないこの領域は、はたして広まるのであろうかと不安だった。こ
のまま埋もれて行くのではないだろうかと、夕暮れの道を一人で歩
いているような心持だった。

少なくとも計量経済学における「構造方程式モデル」という華々し
い領域と同じ名前を竹内先生監修のシリーズで著したら識別性はゼ
ロだろうと思った。埋もれるに違いないと考えた。これが「共分散
構造分析」を冠した理由である。1冊出してしまうとあとは、継続
性を考えなくてはならないので「共分散構造分析」をメインに、
「構造方程式モデリング」をサブにせざるを得なかった。

もう十分、市井に認知されたので、既に隠居の身の私にとっては、
実はネーミングなど、もうどうでも良い。しかし国友直人さんの最
新著書を挙げるまでもなく、心理統計学における「構造方程式モデ
リング」は、ずっとずーっと、これからも計量経済学における「構
造方程式モデル」と極めて似たネーミングであり続ける。 だから
鈴木さんのご指摘はわかるのだが、速やかな移行に関しては、必ず
しも全面的に賛成という訳ではないのだ。英語圏ばかりが世界では
なく、わが国には我が国の事情もある。


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 TOYODA Hideki Ph.D.,  Professor,                    Department of Psychology
 TEL +81-3-5286-3567  School of Humanities and Social  Sciences,
Waseda University
 toyoda _atmark_ waseda.jp   1-24-1 Toyama Shinjyuku-ku, Tokyo 162-8644 Japan
 http://www.waseda.jp/sem-toyoda-lab/
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