[fpr 3547] 「信頼性係数の下限値としてのアルファ係数」のこと

岡本安晴


 岡本@日本女子大学心理学科です。

 「信頼性係数の下限値としてのアルファ係数」については
問題点が指摘されていますが、「下限値である」が成り立つ場合であっても
その使われ方には疑問があります。
 アルファ係数にはデータから算出される値としての不確実性があります。
下限値としてのアルファ係数にデータに依存した不確実性があるのでは、
アルファ係数の点推定値のみが示されても、下限値としての評価が困難です。
信頼性係数の真値は、データに依存して算出される下限値(アルファ係数)より
小さい値であるかも知れません。
 「下限値を示している」とするアルファ係数の不確実な点推定値のみを
示すよりは、アルファ係数より仮定の緩いオメガ係数を用いて、例えば
http://y-okamoto-psy1949.la.coocan.jp/booksetc/pm2010/omega2/
のように推定値の不確実性を事後分布として示した上で、点推定値とか
確信区間を示す方が、尺度の情報として有用であると思います。

 アルファ係数とかオメガ係数は「古典テスト理論」でのことで
古い問題である、今は項目反応理論のような「現代テスト理論」の
時代である
とお考えの人もいますが、以下の理由で「古典テスト理論」の
研究も続けられるべきであると考えています。
 卒論などに限らず実生活で重要な尺度あるいはテストは、
素点に基づくものが多く使用されています。受験で大きな影響をもつ
入試センター試験は素点に基づく情報が利用されています。
入試センターから「現代テスト理論」基づく学力の真値が受験生や大学に
知らされているわけではありません。仮にそのような学力の真値が知らされ、
それに基づいて合否判定が行われた場合、真値の推定値の誤差が0でない
限りいろいろ問題が生じるでしょう。素点というパフォーマンスに
基づいての判定なので、少なくとも一応は実用上使用できる
ということだと思います。
 スポーツなどの競技は、その能力の真値の推定値に基づいて優劣が
決められているのではなく、そのときのパフォーマンスに基づいて
判定が行われています。
 「素点」を用いる尺度あるいはテストは使われ続けると思われますので、
「素点に基づく理論」である「古典テスト理論」は研究され続ける必要の
ある分野だと考えています。

横浜在住
岡本安晴




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