岡本@日本女子大学心理学科です。 「信頼性係数の下限値としてのアルファ係数」については 問題点が指摘されていますが、「下限値である」が成り立つ場合であっても その使われ方には疑問があります。 アルファ係数にはデータから算出される値としての不確実性があります。 下限値としてのアルファ係数にデータに依存した不確実性があるのでは、 アルファ係数の点推定値のみが示されても、下限値としての評価が困難です。 信頼性係数の真値は、データに依存して算出される下限値(アルファ係数)より 小さい値であるかも知れません。 「下限値を示している」とするアルファ係数の不確実な点推定値のみを 示すよりは、アルファ係数より仮定の緩いオメガ係数を用いて、例えば http://y-okamoto-psy1949.la.coocan.jp/booksetc/pm2010/omega2/ のように推定値の不確実性を事後分布として示した上で、点推定値とか 確信区間を示す方が、尺度の情報として有用であると思います。 アルファ係数とかオメガ係数は「古典テスト理論」でのことで 古い問題である、今は項目反応理論のような「現代テスト理論」の 時代である とお考えの人もいますが、以下の理由で「古典テスト理論」の 研究も続けられるべきであると考えています。 卒論などに限らず実生活で重要な尺度あるいはテストは、 素点に基づくものが多く使用されています。受験で大きな影響をもつ 入試センター試験は素点に基づく情報が利用されています。 入試センターから「現代テスト理論」基づく学力の真値が受験生や大学に 知らされているわけではありません。仮にそのような学力の真値が知らされ、 それに基づいて合否判定が行われた場合、真値の推定値の誤差が0でない 限りいろいろ問題が生じるでしょう。素点というパフォーマンスに 基づいての判定なので、少なくとも一応は実用上使用できる ということだと思います。 スポーツなどの競技は、その能力の真値の推定値に基づいて優劣が 決められているのではなく、そのときのパフォーマンスに基づいて 判定が行われています。 「素点」を用いる尺度あるいはテストは使われ続けると思われますので、 「素点に基づく理論」である「古典テスト理論」は研究され続ける必要の ある分野だと考えています。 横浜在住 岡本安晴
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