[fpr 3663] 「標本数」という用語について

豊田秀樹

fprの皆様

 研究会のお知らせだけ、というのも味気ないので、雑文を投稿します。

sample sizeという専門用語に対して、「標本数」「標本サイズ」「標本の大きさ」
などの日本語訳が定着しています。定着している訳語ですから、誤解が生じなければ、
原則的に何を使ってもよいと思います。また誤解が生じたという話は聞いたことが
ありません。

標本という日本語は、1つの観測対象を表現する場合にも、観測対象の
集まりを表現する場合にも使われます(本質はここです)。そして両方の使い方は日本
語として定着しています。「標本数」は前者を、「標本サイズ」「標本の大きさ」は
後者をイメージした訳語です。それを踏まえていれば、どちらも正確性に問題ありま
せん。

主観の話で恐縮ですが、私自身は「標本数」が一番自然な訳語だと感じます。
sizeという英語はともかく、「サイズ」や「大きさ」という日本語は連続量を私に
イメージさせます。バストのサイズは2個ではなく90cmが好きだし、
ラットの研究では、標本の大きさは5匹ではなく、体長・体重が自然に感じます。
誤解は生じていないのですから、どれでもいいのですが、あえて言うなら
「標本数」は同胞の日本人に優しい訳語というイメージがあります。

たとえば、以下の2つの文章を比較すると
A. 標本数400のブートストラップ標本100個をシードを変えて10個
B. 標本サイズ400のブートストラップ標本100個をシードを変えて10個
は意味は同じですが、Aのほうが自然に感じます。わたし自身の個人的な
主観・好みの話なので、ここまでの語感に賛同してもらう必要はありません。
sample sizeの訳語として「標本数」をこそ使いましょうとも言いません。

好みの話はここまでにして本題に入ります。

定着している訳語に対して、最近「標本数はやめよう」とかなり強く否定する方
がいます。自分は使わないというなら、まったく構わないのですが、
間違ってるとか、使うなというのです。原語がsample sizeなのを知らないのか
という口ぶりで散々です。ご丁寧に英語のセンテンスを教えてくれたりもします。
でも趣味の押し付けは、正直やめて欲しいです。

ときどき、学生さんと本を一緒に書くことがあり、そのたびに「sample sizeの訳語は、
どうしましょう」と相談になります。私は「標本数」という訳語が日本人にとって一番
優しい訳語だと思っていること、単著なら「標本数」を使用すると言った後、「でも
感情的に嫌っている人がいるなら、無用な摩擦は避けるべきだから「観測対象数」
とか、「個体数」とかに言い換えましょう」と答えます。ちょと情けないですが
学生さんを抱えているとへたれになります。

学生さんは正しく使う範囲において、訳語として何を使ってもいいのです。
ただし「標本数」の使用を否定する発言はしないように学生さんを指導しています。
学生が、欧米礼賛の植民型知識人と誤解されるのを防いであげたいと思うからです。



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 TOYODA Hideki Ph.D.,  Professor,                    Department of Psychology
 TEL +81-3-5286-3567  School of Humanities and Social  Sciences,
Waseda University
 toyoda _atmark_ waseda.jp   1-24-1 Toyama Shinjyuku-ku, Tokyo 162-8644 Japan
 http://www.waseda.jp/sem-toyoda-lab/
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